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「ターミナル」に宛てて/イコ

無色透明であっていいのか

 

文責:イコ

 

 詩は小説と同じ「言葉」を使っているが、詩が一般的に小説よりもずっと少ない文字で構成される以上、言葉のまずさは引き立つのである。残念ながら、うまさよりもずっと、まずさが引き立ってしまう。

 緋雪の言葉は、色にたとえるならば、無色透明である。具体的な肉感の伴わない言葉ばかりが選ばれているからである。とくに形容詞が多い。「白く磨かれた」「閉口することなく」「浮かれる」「緊迫した」「包容力のある」「統一感の無い」「緩く」「静寂」「物音のしない光」「浄化する」「変化を求める呼吸」これらの言葉は、字面から、ああ、白いんだな、緊迫してるんだな、静かなんだな、というのは伝わってくる。だが、どう白いのか、どう緊迫しているのか、どう静かなのかは、それ以上の情報がないため、まったく伝わってこない。びっくりするほど具体的ではないのである。

もっと細かく見ると、書き手はあくまで「視覚」の情報に頼っており、「聴覚」「嗅覚」「味覚」などに重きを置いていないように見える。いや、「物音のしない光」とあるから、聴覚にはまだ意識があるようだが、それにしても視覚と同列とはいかない。嗅覚や味覚があれば、もう少し色が出そうなものだが、そうできないのか、しないのか。ともかく読み手は、身体感覚を想起して、緋雪の(ほとんどの)詩を理解することがない。

 この透明感が、緋雪の詩を、「きれいな詩」にしているのは事実である。今回の作品では、「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」「おやすみなさい」とつぶやく、人格を与えられた神のような存在が空港をうろついているようなのだが、そう判断できるのも、どうもそのきれいさ、血の通わなさが、「人間」と一線を画しているように思えるからである。そのように曖昧な存在を出すこと自体は、ターミナルというひとつの場所を書くためには有効であるように思える。

 ただしこの神は、どうも非常に拙い存在だ。せっかく詩的な言葉を覚えたのに、うまく使いこなせていないのだ。

 

『統一感の無いもやに触れ』

 

 もちろん「もや」というのは比喩である。人間のひしめきを、「もや」にたとえたのだろう。神様にとって精一杯の「詩」的な感性の発揮なのだろう。しかし直前の、「統一感の無い」とは何なのか。それぞれ目的地の異なる人々のことを、「統一感の無い」と書いたのだろうが、「統一感の無い」を長くすると、「統一されてない感じ」なのだ。「人間のひしめいている感じ」を「もや」とたとえたのに、なぜ「統一されてない感じ」をたとえることができなかったのか!

 

『物音のしない光が射し込み』

 

 光に音があったら、逆に驚く。なんでわざわざ「物音のしない」とつけなければならなかったのか。読者は馬鹿じゃないから、「光が射し込み」でも十分に無音を納得したはずである。神様の「物音のしない」は残念ながら表現ではない。説明である。では神様はどう表現すべきだったか? 拙いながら一例を示してみよう。

 

「待ちくたびれた子どもの眠っていたソファに光が射し」

 

 これなら時間経過が分かり、神様がずっと空港内をうろついていた様子が分かり、さらに具体的にターミナルの映像が浮かんでくる。人間への共感も分かるだろう。「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」などの言葉も、さらにあたたかみのある言葉としてひびくはずである。

 

 どう白いのか、どう静かなのかを、具体的な言葉で表したとき、緋雪の詩が透明できれいなままでいられるかはわからない。けれど、ただ「きれいな」だけの詩に、何の意味があるのか、とも思うのである。きれいなものの奥に、緋雪にしか描くことのできない、真に透明できれいな詩の世界が眠っているかもしれない。


 

ターミナルについて/神崎裕子

ターミナルについて

神崎裕子


初読の感想

ターミナルと聞くと、輸送部門で起点あるいは終点となるような場所。個人的にはターミナルと聞いてまず鉄道部門のターミナルを想像して読んでしまった。後半港、すなわち船舶のターミナルとわかることになるが、できるだけ早いうちに船舶のものと示しておいた方が良いかもしれない。一般にターミナルといえば、鉄道、航空、船舶、自動車の大きく分けて4つあるので似たような間違いが生じる可能性がある。
特に気になったところを
白く磨かれた場所には銀色の光沢さえ映えるすれ違う人の群れに閉口することなく横を通り過ぎる
視覚表現はよいと思う。しかし、すれ違う人の群れに閉口することなく横を通り過ぎるこの部分は、なぜ閉口することなくなのかわからない。


へい‐こう【閉口】[名・形動](スル)
1 手に負えなくて困ること。また、そのさま。「この暑さには—だ」
2 言い負かされたり圧倒されたりして、言葉に詰まること。
「大哲学者と皆人恐れ入りて—せり」〈露伴・日ぐらし物語〉
3 口を閉じてものを言わないこと。
「されども大儀なれば満座—の処に」〈太平記・二四〉

 

大辞泉より

この場合1.と考えるのが自然だがやはり想像できなかった。
浮かれる雰囲気の中に点在する緊迫した空気仕事への懸念か落ちることへの恐怖か包容力のあるステージの顔
浮かれると緊迫を対句表現に思えるがそれにしては後三行への関連が浮かれるへの関連性が薄いと思われる。対句であるなら浮かれるという日本語と緊迫という漢語は不自然。対句ではないにしてもどのように浮かれているかの表現不足感はある。

統一感の無いもやに触れ感情をもらいながら緩く受け止め返す行ってらっしゃいお帰りなさい
もやは感情の象徴であろうか。ならば受け止め返すといった表現は腑に落ちない。返すことなどできるのだろうか。