【特集テーマ】
「時間に触れる瞬間」
ふと気付くと友人と何度も何周もしたゲームが、胸の熱さを誘わずひたすら惰性によって続けていると悟り、カーテンから覗く窓の外が完全に暮れている。
ふと気付くと堂を何度も巡っていて、目的は何か、なんでこんなところにいるのか見失うが、それがセンター試験に行く途上で、もう時間はとうに過ぎていたと知って慄然とする。
ふと気付くと家の内に見慣れぬ家具が勢ぞろいしていて、どれもがいきなり生活の匂いを漂わせている、しかし、それほど仲が良かったものだろうか、付かず離れずを繰り返していたあの人が、と振り返るとしっとりと馴染んだ顔が綻んでいる。
ふと気付くと苛烈な夏の昼光を浴びながらベンチに座り首垂れていて、ブリーフケースの中身の書類の価値という価値、意味という意味が全て崩落して死骸のような軽さになっているのを発見する。
ふと気付くとイチョウ並木が黄色く鮮やかな一面の積層をなし、その中に埋没している。
時間という視えないはずの流れが、しかし確実に私たちを捕える瞬間がある。そんな感覚に、言葉とあるていど懇意である私たちは、わざわざそれと指し示さないまでに慣れ親しんでいるのではないか。それを転がし回しながら少しずつ別のものに捏ね上げるように、『時間』という、形象のないものに触知してみようではないか。
◆特集「時間に触れる瞬間」
※( )内は400字詰め原稿用紙換算の枚数です。
巻頭アンケート企画「あなたが最近時間を感じた瞬間は?」
特設ページ「引用の杜1 ―時間―」
エッセイ「言葉にすれば、自然と音は」(19枚):Pさん
小説「かたうでがり」(30枚):日居月諸
小説「インタラクティブ」(20枚):うさぎ
小説「その手に消えた」(41枚):崎本智(6)
◆自由投稿
小説「キョウゲン」(12枚):うさぎ
小説「In rhythm――断章」(20枚):光枝初郎
詩「アットマーク」:新嶋樹
詩「pentimento」:Naokona jellyfish
詩「真昼の濁水」:深街ゆか
小説「小人の夢」他(全20枚):白熊
◆連載
小説「マイ・フーリッシュ・ハート」第二回(10枚):る
小説「瞳 子」第二回(41枚):常磐誠
評論「暴力論」第二回(18枚):光枝初郎
*「書かれなかった寓話」「白い家」「合同教会の人びと」「藍よりも青く」は休載です。
◆イベント
秋号合評会
・第1回「ビートを鳴らせ」「鈍行にて」「アレクサンドリア読解」
読書会
◆記録
◆編集後記
◆記事