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「たべられたい」 深街ゆか

 

東のほうに飛行船が飛んでる、わたしたちはどこへ帰ろうか、お父さんとパチンコ屋から出てくるところを見てたサトミが、サキちゃんとサキちゃんのお父さんて鼻のかたちが似てるね、なんて言うからあれはほんとうのお父さんじゃないのほんとうのお父さんはわたしが生まれる前に死んじゃった、そう言って髪の毛をいじくったらほんとうにそんな気がしてきて、天国のお父さん元気にやってるかな、お父さんに会いたい、枝毛を抜き取って、分裂とつぶやいた、空に点在する雲、分裂したあと、ユーラシア大陸の向こうへ行くんだって、そんなでたらめ言ってれば、いつかはそんな気になって、分裂してたはずの嘘とほんとうが癒着し、わたしの夢になる。わたしとわたしの天国のお父さんの器官は結びついているけど、にせもののお父さんの器官はどことも結びついてない、結ばれたいのに結ばれない、縛りつけられたら、告発するようなお父さんだから

 

 

風船はすぐにでも空へ逃がしてあげて

そうすればわたしたちの未来へ舞い戻ってくる

分裂して空を覆いつくすくらいの数になって

 

 

 

鰐園の餌の時間はわたしとお父さんが鰐を見下ろす時間、ピンク色の肉にかじりついて、お父さん、鰐が肉を食う姿と宇宙とお父さんの財布は似ているね、お父さんはなんのことかわからないような顔して、うなずいて、そうだねと言った、その三つの共通点を言葉にできるほどわたしの脳内の語彙は乏しくて、それでも、大人になるにつれて語彙が分裂をくりかえし、増殖して、いつか三つの共通点を言葉にできるかもしれないけれど、分裂をくりかえす以前の濃密な言葉で伝えられない、お父さん、鰐が鰐である前かれらは名前が無いだけで存在してたの鰐以外の生物として、そう言い残して、わたしは鰐の檻へ入り込み、ぱっくりと口を広げた鰐の体内へ頭から侵入した、真っ暗でぬらぬらしている、わたしひとり分の空間、ぬらぬら、分裂をくりかえして引くに引けなくなったわたしとお父さん、親族たちとみんなの夢、それから誰が誰から生まれたとか、誰を産んだとか、もう、どうでもいい、鰐の養分になって、排泄される、わたしは、それを選ぶことができた、そのためだけに生まれた、わたし、