【第1回】
日時:8月24日(金)19:00~21:00
場所:skypeチャット&通話
参加者:6、牧村拓、イコぴょん、あんな(発言はなし)
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イコぴょん: こんばんは。創作企画第1回を始めていきたいと思います。
牧村拓: はい、よろしくお願いします
【1行小説】
お題提示
↓
シンキングタイム、発表(10分)
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感想、批評(20分)
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次の人がお題提示
イコぴょん: このような流れで進めたいと思います。
牧村拓: 了解しました
イコぴょん:では、細かいルール設定をば。
牧村拓: はい
イコぴょん: 今日は「1行小説」の回です。1行で、といっても、1行の解釈は色々あると思います。自分としては、とりあえず一文、短文であれば最高でも三文以内で小説を完結させる、という風にしたいと思うのですが、いかがでしょうか。
牧村拓: そうですね、そこから自主規制もかませていく形でいいかと思います
イコぴょん: とはいえ、なるべく自由なものがでてくると良いなと思っています。
牧村拓: ほうほう
イコぴょん: では始めましょうか。
牧村拓: はい
イコぴょん: お題「過去、現在、未来」
牧村拓: 「過去、現在、未来」
私は次の夜明けを迎えられないようなので、眼前に供えられたこの巨大な首長竜とともに人類がすっかり消えてしまうのを待つとしよう。
イコぴょん:「過去、現在、未来」
「明日挑戦するんや」と言った息子の目に、二十年も前にあの校庭のブランコをぐるっと一回転させた、おおうそつきの英雄高橋君の伝説が、光って見えた。
(6は途中参加のため、作品なし)
【牧村拓の作品について】
牧村拓: 普段あまり書かない雰囲気なのですが、「世界一短い小説」から多大な影響を受けてしまいました
イコぴょん: アウグスト・モンテローソの「恐竜」ですね。
牧村拓: それです、それです
イコぴょん: SFですね
牧村拓: うん、けっこう意識的にそうしました
イコぴょん: 未来→次の夜明け、人類の消滅
イコぴょん: 現在→首長竜と共にある状態
イコぴょん: 過去→特殊な状況がどうして成立したのか? を想像させる。
牧村拓: 過去→当初は首長竜の化石だったんですね それがだんだんと変わっていった
イコぴょん: 「供えられた」が不気味。そこに小説の可能性がちらっと見える。こういう、違和感のある言葉をさらっと挟むのは技術ではないか
牧村拓: 違和感はこういった短いものにおいては重要だと感じます
6: 「待つとしよう」というのがマッキーらしい表現。
牧村拓: どうしても個性は出ちゃいますね、こんな短いのに。
【イコの作品について】
牧村拓: 「おおうそつきの」「英雄」という一見すると反対の表現が面白い。平仮名(おおうそつき)というのもひっかかる。
6: イコさんは即興でこの作品を書いた。
イコぴょん: はい
6: 過去が過去として描かれるだけではなくて、現在の事物から蘇ってきている。
牧村拓: 20年『も』←こういう細かいとこが上手いと思う
6: なぜ「も」がいいの?
イコぴょん: 助詞の使い方か。
牧村拓: 20年前→単に時間の経過 20年も→時間の大きさ・流れた時の長さを想像できる
イコぴょん: 読んで、噛み砕くなかで徐々に状況(絵)が立ちあがってくるように書いた。また、過去・現在・未来が交錯しつつひらめくように。
牧村拓: その試みは成功しているように読めます。短いものの中で流れる時間を意図的に膨らませるというのはひとつの技術だと思います
イコぴょん: いい言葉だ。
牧村拓: イコさんの試行錯誤が伝わってきて好印象です
イコぴょん: 試行錯誤、ねらいが文章に十分に発揮されるようにしていきたいです
牧村拓: お題「森、屋敷、夜」
イコぴょん:「森、屋敷、夜」
女主人が目覚めるまで、ひとりの鼠が、あごの先から冷たいしずくを落としながら、廊下の奥のチーズへと、しずかに駆けていく。
牧村拓: 「森、屋敷、夜」
出来上がった屋敷があまりに豪奢だったので、あれほど茂っていた木々はひれ伏し、あれほど暖かかった昼は逃げ出し、深い闇が全てに取って代わっていた。
6: 「森、屋敷、夜」
あの屋敷では亡霊化した領主の魂は夜にしか浮かび上がって来ず、森はただ森として暗く、昼間はその魂を鎮めるための棺の役割を担っていた。
【イコの作品について】
牧村拓: 僕と6さんのは、屋敷についての小説。でもイコさんは直接そこに触れてないんですね。そこが高評価かなと。
6: そうかーそういう方法もあるんだ。
イコぴょん: 森を、具体的に想像させるものを入れ忘れた!
牧村拓: てっきりチーズが森の隠喩かなと。女主人が目覚めるまで=長い時間 駆けて行く=瞬間の出来事。こういう対比が効いてるなと。
6: ひとりの鼠、いっぴきの鼠ではなくて。なにか意図がある?
イコぴょん: 鼠は泥棒の隠喩。しかし伝わらなかったようなので、改善の余地ありですね
牧村拓: そうやって読むと意図する構造が見えてきますね。この一文だけだとちょっと難しいかも。
【牧村拓の作品について】
6: まずこの「マッキー」の小説を読んで思い出したのが『ノルウェイの森』で、「どれくらい私のことがすき?」と人物が言う場面で、「森の樹がみんな倒れるくらい好きだ」というシーンがあり、それを思い出しました。
イコぴょん: 春樹節を感じるけれど、春樹を活かしていく方向で考えていくべき?
牧村拓: 意図せずに出てしまうというのはちょっと抑えたい
イコぴょん: 屋敷のすごさに、おそれをなして逃げている?
6: 屋敷は完成したばかりの様子。
イコぴょん: 童話のなかの一文に見える。
6: マッキー的にはこれを寓話として使いたかった。
牧村拓: そうです
イコぴょん: 寓話のなかでなら、擬人法はわざとらしくなく映える。
牧村拓: しかしこれだけを取り出してみるとやはり違和感があるかもしれません
イコぴょん: 人類の栄華をマイナスととらえる、人類が建設を繰り返し、自然を死の世界へと変えていく喩えか。
牧村拓: 金持ちを皮肉りたかった。
イコぴょん: 一見プラスになるイメージを、マイナスイメージと連結させているのが面白い。
【6の作品について】
牧村拓: これは本当に6さんらしいな、と。描写の執拗な感じが
村拓: 「森はただ森として暗く」 こういう表現、僕の手持ちにはないので真似していきたい。
イコぴょん: ヘンリー・ジェイムズの、「ねじの回転」に通じる。屋敷に幽霊があらわれるというところや、書きぶりが。また、牧村さんのものとは違い、亡霊はただ亡霊として存在していて、何かの比喩ではない。
牧村拓: 鎮めるための→鎮めなければならない必然性がある。やはりここでも直接書かないで、描写したいことを想起させているなと。
イコぴょん: もう少し、小説がひらけるための、フックがほしいところ。
6: お題「ビスケット、由来、海」
6: 「ビスケット、由来、海」
フェリックストウの港でみつけた古地図からわたしの名前がある地方の海から来ていることは明白で、次の停車駅につくまでには母に焼いてもらったこのビスケットもなくなるだろう―明日わたしは結婚をして、新しい名前を手に入れる―。
イコぴょん:「ビスケット、由来、海」
自分の名前の意味を聞いた男の子がポケットにありったけつめこんできたビスケットは、つかみあげるとぼろぼろくずれて、重たいすなつぶにまざってしまった。波はいっしょに泣いてくれた。
牧村拓: 「ビスケット、由来、海」
その名に冠された海が世界中のビスケットを次々と溶かしていって、やがては本物の海までもいっぱいにしてしまうのではないかと怖がって、少女は崖から身を投げた。
【6の作品について】
牧村拓: 情報量が多い。こういう執拗さってのはいいなあと思います
イコぴょん: 薫ってくるようなロマンを感じる
牧村拓: こういう文章を書ける感覚は取り入れたいですね、語る香る。ふくらみを持った文章。
牧村拓: 時間がたくさん同時に流れている。
イコぴょん: ひとりの女性の旅から、一族まで辿るんですね。>重層的な時間
イコぴょん: 名前を喪失するから、名前の由来を調べる……なるほど
6: 明日からわたしが母としてビスケットを焼く、という様子を描いた。
イコぴょん: それはちょっと難しいかも。新しい名前を手に入れる、というくだり(種明かしのようなもの)で、読者は胸がいっぱいになる。だから、自分が母となってビスケットを焼く、というところまで、想像が追いつかない。
イコぴょん: フェリックストウ、という言葉を捜し出す嗅覚を学びたい。
牧村拓: ちょっと上手く表現できないんですけれど、女性的なにおいがする
6: 語り手は女性のつもりです。
牧村拓: 語り手が女性というだけではなく、小説が持つ雰囲気というか色と言うか
イコぴょん: あと、一文の、一見するとねじれた混ざり合いが、異化作用を起こしている。ただ読み流せない文章、咀嚼したい文章になっている。
6: 実質的には三文ぐらいありますw
牧村拓: で、~だろう―~―というのがそこですよね
【イコの作品について】
牧村拓: 波が一緒に、というのは感傷を呼び起こす表現としてうまいと思う
牧村拓: イコさんらしい仮名遣い。こういったものの積み重ねが文体になっていくんだなあと肌で感じる。
6: これまで男の子はいろんな自信をつけてきて、それを「ビスケット」という言葉で表現していてそれらが名前の意味を聞いた途端に崩壊してしまった。という印象を受けます。
牧村拓: アイデンティティを名前に託すという表現
6: ビスケットが軽いものとしてあらわれ、砂粒がおもいものとしてあらわれて、波がそれらを洗い流す情景。
牧村拓: ビスケット⇔砂粒 波(海)⇔男の子 対比かなあと。どうしても直接的に意識が向いてしまうのでこういう間接的な表現は参考にしたい。
6: 誰から名前の由来を聞いたのかは明かされていない……。あえて書かれていなかった。
牧村拓: 空白を残す作業
6: もし明かされるとしたら、突飛な人物からの方が好ましいと。
6: マッキー的には、地元の漁師からきいたと想像した。
牧村拓: そうですそうです、まったく作為を持たせない意図を出せる
6: 意図も作為もないうえで男の子の名前を言ってしまった。男の子はそれにきづき、きずつく。
イコぴょん: 考えたいと思わせる小説でありたい。
6: マザー(ゲーム)のような記号化された世界のなかでの出来事として読みたい
イコぴょん: なるほど
【牧村拓の作品について】
牧村拓: ビスケット=愛情、恋
6: 愛っていうのがマッキーらしい。
牧村拓: 僕の姪から着想を得ました
イコぴょん: 解釈。舞台は太平洋戦争時。ビスケットはアメリカ的なものの暗喩で、米兵が沖縄の海を汚す。沖縄の女性たちが身を投げていく。
牧村拓: 自分の文章は動詞が多くて固有名詞が少ない。もっと何か特定のものを想像させる具体的なアイテムを小説に投入したい。
6: 「そして私は質屋に行こうと思い立ちました。」宇野浩二の『蔵の中』は左記の一文からはじまるそうですが、これが「接続詞」からはじまるのに対して、この小説の「その」(指示語)からはじまるのも、なんだか面白いとおもいました。
牧村拓: そういったものが世界観を強くしてくれるかなと思います
イコぴょん: ちなみに6さんもさきほど、「あの」を使っている。指示語は小説の状況を特定させるのに一役買います。
【今日勉強になったこと(抜粋)】
①直接的に書かない(お題があれば、お題を直接使わない)→ふくらみが出る
②フックをもたせる(これくらいの長さなら単語一つになるが、長い小説であれば、段落一つ。ひっかかりを作る。違和感の挿入)
③助詞「も」「は」「が」の使い方(たくみに使い分ける)
④自分の文章の特徴を把握し、活かすような構造にする(6さんでいえば、フェリックストウを使いながら、3文を一気に凝縮する)
(文責:イコ)