彼女は切り刻んだパイナップルを口に挟みながら母親から届い
た手紙を手の中で一度くしゃくしゃにしてからもったいなさそう
にゆっくりと開いて、その手紙の内容を頭の中で音読し終わると
ルームサービスでアイスクリームアソートを頼んだ。このホテル
は一体どれだけの大きさなのか把握できないくらいに巨大で、ワ
ンフロアーだけでも端から端まで見えない複雑な作りをしていた
ので中を歩いているだけで迷宮に迷い込んだのではないかと思わ
せるほどだった。等間隔に並べられたドアから漏れ出てくるテレ
ビの音とシャワーの音とスリッパを絨毯に擦る音がかすかにきこ
えてくる夜の時間帯に、地下のプールに行くことも考えたがホテ
ル内で迷子になりそうだったので大人しくクイーンサイズのベッ
ドの中にからだを埋めたまテレビを見ていた。暗い室内を白い
光が眩しく照らし、わずかに開いたカーテンの隙間から差し込ん
でくるヘッドライトや信号の点滅する光と混ざり合いながら目の
前を横断していく。バスルームから湿ったタオルと歯磨き粉の匂
いが漂いベッドシーツにゆっくりと染みこんでいった。
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