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第6回「ポトスライムの舟」

ポトスライムの舟(講談社文庫)
ポトスライムの舟(講談社文庫)

芥川賞読書会第6回

作品:津村記久子「ポトスライムの舟」

日時:平成24年8月22日(水) 21:15~22:25

場所:skypeチャット

ホスト:イコ

参加者:神崎、緑川、イコ(イコぴょん)

 

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イコぴょん:では始めましょう

神崎: お願いします。

イコぴょん: ポトスライムの舟ですが、まずはみなさんに、感想をうかがいたいです

イコぴょん: あと、書き手としてここは学べるな、と思うところもあったら教えてください

神崎: 日常を書くのが非常にうまい作家であると思いました。作者はラインについたことがあるのかな、と想像させるほどリアルな書き口は勉強になります。

イコぴょん: うんうん、たしかに。

緑川: 日常としては、友人間の人間関係の描かれ方もそうかなと

イコぴょん: そうですね、妙齢の女性たちの関係を面白く読みました

緑川: いかにもリアル

神崎: 自分の家の事を言いたがる人もいいれば逆の人もいる。>リアル

イコぴょん: われわれが異性である以上、それが真実そうである(リアル)であるか分からないにも関わらず、それがきわめて「リアル」であると感じられるという、これが小説としては重要なことかと思います。経験のない人でも説得力を帯びて見えるという。

神崎: 小説における説得力になりえます。描写の繊細さというかそれは

イコぴょん: 自分がこの作品を読んで、なによりすごいと思ったのは、描写の繊細さにもつながるんですけど、とにかく「作為」が不自然に透けないところ。ナガセが世界一周ツアーを目指すのも、とても自然な流れで描かれているし、その「世界一周」自体が、うるさく主張しない。

神崎: 普通なら世界一周なんてものは一大事ですものね。いくらパッケージツアーとはいえ。その一大事を結果的に可能にしてしまう。

イコぴょん: うん、でも(世界一周旅行に)行くのかどうかっていうと……

神崎: そこまでは描写されていないところがまた説得力を増しています

緑川: 行かないかと

イコぴょん: ですね! そこがすごいと思います

緑川: お金を貯めたことのお祝いに何かしよう、と思いつく。旅行はすでに選択肢から外れているような。その流れが自然。

イコぴょん: 働いて、自分の貴重な時間を金と引き替えに売っていると考えるナガセ。彼女は、幸せのありようを探していたんじゃないかな。

緑川: 幸せのありようを探していながら、具体的には思いつかない。>一言観音の場面

緑川: それで、世界一周は、ナガゼにとっては象徴のようなものだったのかな

イコぴょん: そうですね、とりあえずの、目に見える幸せだったんですね

神崎: 作品の中だけにある象徴ですね

イコぴょん: ナガセは、日常のなかにあるささいな幸せに、気付いたんでしょうね

緑川: ただお金を稼ぐだけの日常に、そういうものがあるのとないのとではずいぶん違う。しかもその象徴が163万円と妙に具体性を帯びているとも言える。だから形になっている。

神崎: 頑張ればギリギリいけそうな額。ナガセの収入から考えてですが

イコぴょん: 年収と同じですから、ビジョンがもちやすいんですよね。あくまでポスター一枚によって現実とリンクするだけの存在である世界一周だけれど、「いけるんじゃない?」と思うと、目標にかわる。

緑川: 金額に換算されてるので、具体的でもある

イコぴょん: 津村さんは、日常のなかの理不尽や悩みに対して、いつもささやかな対処法を提示する作家だと思います。

緑川: なるほど、他の作品は読んだことないです

イコぴょん: 『カソウスキの行方』も、『アレグリアとは仕事はできない』も、そうなんですよ。周囲の状況が、どうも主人公を生きづらくさせるんですけど、そのなかで、じゃあどうやって生きていこうか? って考え出す。そのアイデアがなんともユーモアにあふれていて、生活の実感にも裏打ちされている。ポトスライムは、そのなかでもとくに不自然さが見えず、完成度の高い作品に思えました。

神崎: その中での世界一周と考えるとまた具体性がかなり高いものですね。ポトスを食べようとするのもまたそうです

イコぴょん: けっこう追い詰められてますよね、この主人公w

神崎: ですね。金を溜めるためなりふり構わなくなっている、

イコぴょん: でもそれがからだの変調につながってしまう。無理したってしょうがないよ、自分の身の回りを肯定して生きようよ、っていう作者のメッセージにもとれる(追記:「無理すること」も肯定しているような感)

神崎: そうですね。文庫の帯には「働き続けた毎日はきっと無駄じゃない」とあるようです

イコぴょん: 「社会人必読」とも書かれているようだ

緑川: 30歳で独身で、時間を切り売りするような仕事を繰り返してて。追い詰められてる感は、そういう毎日の繰り返しから生まれます

緑川: ええと、どこだっけ? そんな感慨をナガセが漏らす場面がありましたが。

緑川: 『(生活を)維持して、それからどうなるんやろうなあ。わたしなんかが、生活を維持して』(単行本の80頁)

緑川: そういう閉塞感

イコぴょん: 『生きていること自体に吐き気がしてくる。時間を売って得た金で、食べ物や電気やガスなどのエネルギーを細々と買い、なんとか生き長らえているという自分の生の頼りなさに。それを続けなければならないということに。』(文藝春秋341ページ)

神崎: 細々かはともかくとして皆がそうですよね

イコぴょん: ナガセはすっとぼけたところのある人ですが、こういう感慨は、社会人には、すっと入るんじゃないかな

緑川: ですね。くじ(ミニロト)を買ったりしてるし

イコぴょん: 1年間、とにかく自分の無駄な出費を見直す、きりつめた生活をすることで、逆に、自分が今まで無意識にやっていたことに気がつく

緑川: なるほど

イコぴょん: それを許せるか、どうかなんだと思う

神崎: ふむふむ

イコぴょん: で、この人は、それを許した。金をためたお祝いをしよう、と無駄を思いつく。

イコぴょん: 『とりあえず、岡田さんにお茶とスコーンをおごって、恵奈にイチゴの苗を買ってやろうと思った。』

イコぴょん: ちょっとジーンとくるシーンです。目立ったドラマのある作品ではないんですけれど。

緑川: そして、「世界一周クルージング」(みたいなもの?)にも、また会おう。と

イコぴょん: やはり成長小説なんですね。雨水タンク買ってるしなあw

緑川:

<<< 文庫の帯には働き続けた毎日はきっと無駄じゃないとあるようで

緑川: これも、成長か

イコぴょん: そうですね。考え方ひとつで、ずいぶん生きるのが楽になる、ということなのかもしれません

緑川: 生活を彩るようなものなのかな、世界一周。それと、ポトス

イコぴょん: 世界一周を実現したら、生活は彩られるどころか、価値観激変しそうですけどねw

緑川: まあ、実際に行くわけではないようなので^^;

神崎: そうですね。

イコぴょん: 実際に行かないからこそ、世界一周の妄想が、生活を彩ってくれるんでしょうね

緑川: その身近な象徴がポトスライムでしょうか

イコぴょん: 毎日を、肯定できるかどうか。これが、ポトスに象徴化されてますね。ポトスのような、花も咲かない、華々しくない、葉っぱを見て愉しむだけの植物。しかも簡単に増えていく。=ドラマがない。これを肯定できるかどうか。

緑川: なるほど

緑川: ポトスの夢、二つありましたよね。私の見落としでなければ。この夢は、どう解釈したらいいんでしょ? 私はうまく解釈できなかった。ていうか、無理に解釈したくなかったというべきか

イコぴょん: どんな夢でしたっけー(忘れた汗

緑川: ひとつは食べる夢。雨の降り続いた日。もうひとつは、雨水タンクを買うちょっと前。カヌーに乗って、あちこちの島でポトスライムの水差しを配ってる。

イコぴょん: あったあった。どちらも卑屈な夢ですね。前者は娯楽が生活に直結してしまう危うさ。後者は、「最低課金の娯楽」を世界一周旅行でみんなにすすめるという、貧乏くささ、生活感のあらわれ? 世界一周という夢がすでに現実に浸食されている感。

イコぴょん: みなさんはどう思われますか

緑川: ん~、さっきも言いましたが、ほんとに、よく分からなかった

神崎: 実はぼくもです

イコぴょん: 夢を無理に分析するのは野暮な感もありますからね

緑川: イコさんの言われることも分かりますが>卑屈な夢

イコぴょん: いやー、自分もこじつけな感は否めないですよ

緑川: えっと、ネガティブなイメージだけじゃない感じもしますしね

イコぴょん: ふむふむ

緑川: ちょっと多義的かな

イコぴょん: ひとつの言葉で、ぱっと置き換えられるものじゃないですからね、夢って。あまり印象に残らなかったけれども、ナガセらしい夢だな、とは思いました。

緑川: 印象に残らないか・・・あまり作中で大きな部分を占めてないのかな

イコぴょん: この作品って、大きな部分を占めている、重要だ! ってはっきり言えるところがあまりないように思うんですよ。すべて日常の連続のなかでの選択、結果、というような

緑川: あぁ、なるほど。それで私も最初読んだ時は、ひっかかりを感じなかった。どこがこの作品のキモなんだろうと。

イコぴょん: ものすごく当たり前のように人生が進行している感じ。だから「印象に残らない」「つまらない」って思う人は、多いかもしれないなぁって。ひっかかりを感じない、というのもあるかもしれませんね。でもだからこそ、ものすごくうまい、と思う。ものすごく丁寧に、外側を描きつつ、心理を積み重ねている。「小さな物語」のお手本だと思います

緑川: なるほど

神崎: ふむふむ

イコぴょん: 書き手が学ぶべきことに言及したいんですけど、みなさんは津村さんから、とくに何を吸収したいですか。

神崎: 日常から何かをシンボライズさせることのうまさなのかな。他作品読んでいないので何とも言えないけど

イコぴょん: 「世界一周」とか「ポトス」ですね

神崎: はい

イコぴょん: たしかにこういうアイデアを引っ張ってくるのが、ものすごく津村さんはうまい。

緑川: べたな日常から離陸してる部分かな。神崎さんに被りますが

イコぴょん: 離陸、というと?

緑川: 詩、がそうなんですけど。淡々と言葉を綴ってて、だけどどこかで地の部分から飛躍している。ちょっと、上手く言えなくて申し訳ないですけど

イコぴょん: ふむふむ、きちんと詩的な言葉になっているということですかね

緑川: と思いますね

イコぴょん: なるほど。自分はこの、丁寧さを見習いたいですね。われわれはついつい、書くべきことを書き逃して、性急に次の場面に行きたがるものですが、津村さんは、ものすごく抑制された筆致できちんと世界を立ち上げている。ひとつひとつの事柄が不自然にならないようにうまーく、書きたいことをとけこませる

緑川: けっこうきついことですね。つい、筆がダレる。

イコぴょん: 体力のいることですね。なんでもないことを、書き続けられるか。もちろんこの作品の場合は、「なんでもない」ことに価値を宿らせるわけですから、必要不可欠なわけですけど。

イコぴょん: 今日はこんなところでしょうか。他に語りたいことなど、ありますか?

緑川: 言いたいことは言ったかな

神崎: 大丈夫です

緑川: 訊きたいことも訊いたし

イコぴょん: はい、では、今日の読書会は、これにて終了としたいと思います。延期となりましたが、こうしてお話出来て、楽しかったです。ありがとうございました

緑川: ありがとうございました

神崎: お疲れ様です

 

(文責:イコ)