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藍よりも青く 第一回:緑川

一、まるで嘘のように

 

 自分は今、いったい何をしているんだろう? なんて、何かに夢中になりながら、ふと立ち止まるような気分になることが子供の頃から度々あった。それは大人になった今でも変わらない。別に僕だけがそうなのではなくて、誰にとっても普通にあることなのかもしれない。よく分からない。

 たとえば今、空調の効いただだっ広い個室にどんと置かれた広いベッドの上で僕は彼女と睦み合っている。というか、睦み合うっていうのは、こういうことをいうものか、などと他所事のように僕は考えている。生温かい肌に唇を這わせてみる。甘い肉の味がする。こういうときに、なぜか先日、ネットで見かけた男の娘の画像が頭をよぎる。可愛かったな、なんて。

 だけど、いくら可愛くても、彼(?)の体はこんなに柔らかくないだろうと、彼女の胸から下腹部へと手を伸ばしながら思う。ふだんは全然気にならない、自分の指の節々や、腕の筋肉がごつごつした感じを意識する。

 それにしても、二時間三千九百円の自由、どこからも横槍の入らない部屋はまた、なんて俗っぽい空間なんだろうと思う。

「もっとめちゃくちゃにして」なんて、本気なのかどうなのか彼女がかすれた声で言う。

「理沙のえっち」と言い返してみる。

 彼女が少し媚びたような目つきでこちらを睨みつけ、軽く顎を突き出す。

「いいじゃん、べつに」

 僕は彼女の唇を自分の唇でふさぐ。

柔らかいうめきが唇を通して伝わってくる。まっさらな、だけど無数の男女の体液が染み込んだであろうシーツ。可もなく不可もないソファと小テーブル。

 適度に薄暗い照明が壁紙に影を投げかけている。その白々とした陰影には秘密めかしたものは何もない。何か得体の知れない生き物が息を潜めているなんてことは、絶対にない。

 

 なんだろう、この空気。なんて、我を忘れかけながら僕は思う。さんざめく波にたゆたいながら、じっとその揺らぎを観察する。小さな光が目まぐるしく生まれては消える。いつものように理沙の眉根が八の字に歪み、泣きそうな顔になる。抱きしめると強く反発してくる。逃がさないように、僕は全身に力を込める、そしてもう少し急ぎ始める。

 

(続きはPDFをダウンロードしてご覧ください。)

藍よりも青く:緑川.pdf
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