twitter文芸部のつぶやき

フォロワー募集中!

オフィシャルアカウント

部員のつぶやきはこちら

現在の閲覧者数:

ツイ文党員6とOとKの冒険―『よもつひらさか往還』読書会

 

 

H感化院に職を得たスミヤキ党員Qが党の密命をおびてこの島に到着したのは昼まえのことであった。数時間のつらい船旅ののちにはQは島の船着場に着いたのである。Qが乗ってきたのは古い木造の漁船を改造した定期船らしかったが、乗客はQひとりだったし、粗末な木の長椅子の並んだ船室のなかば以上はひどい魚臭を放つ木箱で占められていたので、Qは自分が乗客であるというより、積荷のあいだにまぎれこんだ密航者であるような気がしていた。「まるで囚人護送船で流刑地に送られたみたいですね」とQは桟橋に荷物をおろしてくれる漁師に冗談のつもりでいった。

(倉橋由美子『スミヤキトQの冒険』)

 

 

出発またはプロロゴス

ある目的を達成するためにツイッター文藝部員6が部の密命をおびて地元駅に着いたのは、午前九時を過ぎたばかりだった。前日の一夜漬け的な準備に少し疲労を感じながら、滋賀県のある駅に着いたのである。そこで涼しげなシャツを着た若い男と出会う。同じ部員のK崎(以下K)だ。われわれはツイッター文藝部という奇妙な活動に従事している。そう、文学という何か巨大なものに魅了されたひとびとの集まりである。日夜(主に夜)、文学についてのあれやこれやをけんけんがくがくと議論しているのだ。その活動にいまのところ終わりはなく、じょじょに勢力を増している(はず)のだった……。

Kは忘れ物をしたらしく、それをとりに戻ったため遅れてしまったのだった。わたし、6は普通に遅刻していた。われわれ二人は京都である人物と落ち合う予定だ。

そのときわれわれが主に使う通信手段「reply」に「『よもつひらさか往還』を持って立っています」と唐突な連絡が入る。そう!その連絡をよこした人物こそわれわれがこれから会う予定であるOという人物だ。

 

 

Oは活動を開始する

ミスタードーナツのまえでひとりの男性が仁王立ちをしている。肩にはやたらめっぽう重そうな鞄をさげてはるか前方を睨んでいる。

「小野寺さんこんにちは」とKと二人で挨拶をする。

O野寺(以下O)は、『よもつひらさか往還』などまったく手にはしていなかった……。

こうしてわれわれ三人はそろう。これからバスで糺の森古本市に向かうのであった。

バスでは後ろの席からOの笑い声が絶えない。ふだん「reply」とは別の通信手段「skype」でその笑い声を聴いているので、京都の街中にOの声が聞こえるのはある種、幻想的でもあった。

「あ、古本市の旗がたっていますよ」この旅はだいたい、一番年下のKに導かれてOと6がそれについていく感じだった。Kに感謝。

一時間ぐらいかけて長いバスの道のりにようやく終止符がうたれ、われわれは古本市の開かれる下鴨神社に到着する。

 

 

夢のなかの下鴨

下鴨神社と糺の森は神秘的な場所だった。いくつもの樹が群生してトンネルをつくり、終始林の中は湿気につつまれていたが木陰が温度をさげていたので、快適だった。

とりかこむのに手をめいっぱい広げた大人が四~五人はいるのではないかというぐらいの大きな樹がところどころに映えていた。雷にやられたのか黒焦げになり半分に折れた樹もある。われわれはお参りをすませて、林のなかを探検していた。苔むした地面は露でつやつやと光っている。小川には文字通り無色透明の水が流れている。もののけ姫の森のような神秘的なその場所をぬけると異様なほど沢山テントが張られた場所があり、そこには古本が何百冊と陳列されてあった。テンションMAXでわほほーいという感じでわれわれは物色しはじめた。絶版になったことが悔やまれ、なかなか読むことができない後藤明生なども三冊ぐらい並んである。ベケットの見たこともないような書物もある。

古本屋の店主と話をしてみる

「どうやってこんな大量な本を持って来たのですか」

「わたしら、神戸から4tトラックで積んで持って来たのですよ」

宇野鴻一郎の官能小説がずらり並んだ本棚に6はどきどきしていたのであった。

神秘的なできごとがおこる。それは局所的に雨が降るのだ。少し前方は晴れているのに、半径十メートル圏内は雨が集中的に降っている。それも一分もすれば止む。それが断続的に何度も繰り返される…。糺の森が見せた奇蹟。何となく文学少女的な気持ちで妄想していた。Kはル・クレジオ『大洪水』のめちゃくちゃかっこいい装丁の古本を八〇〇円と言うお値打ち価格で購入していた。Oはなんだかマニアックな小説を購入していた。6は辻邦夫『小説への序章』東浩紀『郵便的不安たち』を購入した。

 

Oの写真
Oの写真
夢の中の下鴨
夢の中の下鴨

『よもつひらさか往還』読書会

読書会をおこなう場所の貸し会議室に到着した。

本日の貸出者一覧の看板にちゃんと「twitter文芸部」という文字があったときは感動した。いつもツイッター文藝部はネットの中にしか存在していないので、こういう実体をともなって現れたときには妙に感動を覚えてしまうのだった。途中ローソンで買った「コーヒー」「カフェオレ」「抹茶オレ」などそれぞれの飲み物を広げていよいよ読書会は始まる!

 

・作者倉橋の豊富な古今東西の文学の知識を体験でき、大変おもしろかった。

・初期の倉橋作品は「恋と革命」について描いていたけれど「よもつひらさか」では、奥行きが感じられない。<党>という概念もなく、快楽が描かれている。

・その政治的なものから離れて、性的なものへ導かれていくのは現代の状況とマッチしている。

・死体愛好やカニバリズムなどのグロテスクな趣味もこの小説には入っている。

・シュルレアリスムの観点からもこの小説は語ることができる。

・九鬼さんのキャラクターが生きている。死んだりして、この小説がある種転調するんだけどちゃんと元の場所に戻って来れているところがすごい。

・「髑髏小町」の短編がとくによかった

 

などさまざまな意見が飛び交い、最後には好きなシーンの朗読をして読書会を終えた。

 

 

シュルレアリスムとアレゴリーとシンボルの話

時間が余ったのでホワイトボードを使って即興で「文学の授業」をしようと言うことになった。

 O高階秀爾の本を使って「シュルレアリスム」についての講義をしてくれた。さすが元教員だけあって板書とか立ち居振る舞いとかは先生らしいものを感じさせて、講義も大変分かりやすく刺激に富んだものであった。

つぎに6がベンヤミンを参考にしながら「アレゴリーとシンボル」の定義を説明して理想の文学作品について語った。あっというまの二時間が過ぎてわれわれは貸し会議室をあとにした。

 

文学しりとり合戦

6おすすめのグリーンカレーの店の開店時間が一七時半からだったので、近くの百万遍知恩寺で夕涼みをすることにした。夕涼みと言っても、うだるような暑さはまだ地面にたんまりと貯えられていたので頭の中が三人ともぼーっとしてうまく働かない。

そこで文学しりとりをして時間をつぶそうという妙案がだされた。

小説家・作品・登場人物……文学に関わることなら何でもOKのしりとり、二人は何となくめんどくさそうだったけど、わたしはがぜんやる気だった。Oは卓越した文学知識でつぎつぎと一瞬でひらめいていく「有吉佐和子!」「多和田葉子!」などの女性作家を巧みに用いながら、「コ」攻撃をいやらしく続けていた。そのうちOはお寺の鐘の下で寝そべっていつのまにか柱についた蝉を見上げている。「この位置だとおしっこひっかけられるかも」と言いながら呑気に寝そべっている。

 

夕涼み
夕涼み

グリーンカレーの誘惑

午後一七時半になり、例の店が開店すると同時にわれわれは食卓につく。

そして三人が三人ともグリーンカレーを注文して「辛い、旨い」言いながらばくばく食べる。ココナッツがまぜてあるから辛いんだけどクリーミーな絶妙な味だった。

他の部員のひとにも食べてもらいたいなぁと思うことひとしきり。

そこで何を話したかも覚えていない、三人で汗をかきながらカレーを食べていた記憶しかない。Oと6は緑の唐辛子まで食べつくしていた。

 

帰宅またはエクソドス

七条駅まで電車に揺られて、もう電車に乗るころには三人とも疲労でくたくたになっていた。三条駅から、京都駅までは徒歩圏内とOKが言うので、そこからは歩くことにした。

 Oが「6さんぐらいの年齢のときは毎日ここでマック食べていましたよ」と在りし日の情景に思いをはせていた。

夜の京都。鴨川をわたるときには涼しい夜風が吹き渡り、三人のあいだを通り抜けて行った。そして京都駅に到着、新幹線で東へ帰るOと別れて、わたしはKと共に滋賀県へ帰って行った。

 

遠い中来てくれたOと読書会の手筈を整えてくれたKに改めて感謝します。そしてiphoneがつぶれてしまい、せっかくの音声がなくなってしまい申し訳ありませんでした。

文責:6